日が昇ると、センリツとクラピカはそろって廃墟から出ていった。呆れるほど予定通りに。レオリオは空港まで見送りに行くつもりらしく、二人と一緒に出て行った。私は行かなかった。去っていく後姿を窓から見送るだけで、十分。
私もそろそろここを出よう。
発の修練をするゴンとキルアにそのことを告げると、なぜだかゴンは慌てて外へ走って行った。大きな声で「まだ行かないでね、おれが戻ってくるまで待ってて!絶対だよ?!」と言い残して。
「?、なんだあいつ」
キルアも首を傾げたので、あまり気にしないことにした。ゴンの突発的な行動について、キルアに分からないことが私に分かるなんてこと、きっとほとんどない。あるとすればそれは、キルア自身に関わることくらいだろう。ひとは、じぶんに近ければ近いほど物事がよく見えなくなるものだから。
「まあ、ちょうどいいや。おれ、アキに聞いてみたいことあったんだよね」
「なに」
んー、と喉を鳴らして逡巡する様子を見せた。視線を落として、言葉を選んでいるようだった。
「アキはさ、仇を討てて良かったって、おもう?」
こちらを見ない。
まさかじぶんを加害者に重ねているわけではあるまいが、けれども、まったくの無関係ともおもえなかった。天性の才を持つキルアの強さの裏側で、いつも息を潜めている影は根深く、それを自身の力とするのかはたまた足を掬われるのか、事ある毎にせめぎ合うこころがあるのだろう。容姿も人格もまったく異なるキルアとクラピカの、そこだけが、私のなかで印象の重なる唯一の部分だった。
「恨みも憎しみも、消えない。何年経っても。……だけど、」
このときようやく顔を上げたキルアの視線を、正面から受け止める。できるだけ、まっすぐに。
「だけどそれは、報復というかたちで晴らすべきものじゃなかった。だって、もし……もしも私の殺した二人を、大事に想うひとがいたら?そのひとからすれば私も立派な仇で、人殺しで、憎むべき相手なんだわ」
多くの復讐者は、その目的を成し遂げた瞬間から被復讐者になる。あれは、そのとき目の前にいた男のためだけに、紡いだ言葉ではなかった。自分自身に向けて放ち続けてきた、毒のようなものだった。
「過去は変えられない。でもここから先の未来は、自分次第だとおもう」
月並みな答えだけど、と言って笑顔を浮かべるつもりが、うまくいかなかった。キルアは私の答えには何も意見せず、ただ「あんたの苦笑い初めて見た。へったくそ」と茶化してみせた。
ややあって、私たちのいる場所へ走って戻ってきたゴンの手には、あたたかそうな湯気をあげるたくさんの食べ物が抱えられていた。
わざわざ昼食を買うために人を待たせて外へ出たのかと、待たされた方の少年が問えば、
「ううん、お腹がへったのもあるけど、キルアがアキに話したいことがあるんじゃないかとおもって」
あっけらかんと彼は答えた。
二の句が継げないキルアに苦笑しながら、有り難くゴンの気遣いを戴いた。今度こそ上手にわらえただろうか。
(2015/01/14)