どこまでも続くように思われたエレベータの降下は階数表示のディスプレイが地下百階を示すに即して静かに動きを止めた。機械的な音を立てて開いた扉の向こうから、緊張感に僅かな殺気すら入り混じったオーラを纏う幾人もの受験生達が一斉に鋭い視線をこちらへと投げる。しかし本当の意味での“オーラを纏う”者は片手で事足りるほどしか見受けられなかった。
既にハンターとして(ただし名目上はアマチュアとして)働いたこともある自分が今更ライセンスを取ることに然して意味はないように思われた。けれども、実際問題として、その者がハンターであることを公的に認められた資格を持たなければ踏み入られない土地や許されない行為が多くあることを、十七年という決して長くはない生の中で私はいくつも知り得たのである。
一人の偉大なハンターによってその切欠を与えられたのは、私がまだ十と一つを数えたばかりの頃、両親を亡くした年に出た旅の最中でのことだった。
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「よお、あんた新顔だね?」
馴れ馴れしく近付いてきた恰幅のよい男が、言葉巧みに一本の缶飲料を差し出した。いらない、と一言。まあそう言わずに、などと尚も食い下がる男の卑屈な笑い方からして、十中八九それが好意からくるものではないと予感した。
仕方なしにこちらが折れたように見せかけて、缶を受け取る。蓋も開けずに男の眼前で缶を握り潰した。
「……あまり、人を見た目で判断しないほうがいい」
「そ、そうだな、こいつは失礼……」
言うが早いか、男は後退り、人混みの中に姿を消すようにして立ち去った。周囲の目を他所に、私は持っていたハンカチで汚れた手を拭いて、その場から立ち去りもせずに再び黙して試験開始を待った。
「すげえ怪力。本当に女かよ?」
ハンター志願者というのは得てしてお喋りなのだろうか?そう錯覚してしまいそうなほど、今日はよく声をかけられる。と言っても、まだ二人目なのだけれど。この薄暗い場所においてはそれでも多いほうに入る数だ。
「ま、俺もあれくらいは造作ないけどね」
「あなたもハンター試験を?」
「他にある?こんなところにいる理由が」
「……そうね、ごめんなさい。人を見た目で判断するなと自分で言ったばかりなのに」
「あ、それひっでー!俺がそれっぽくなかったってことじゃん」
ちぇっ、とひとつ舌を鳴らす。限りなく白に近い銀髪が幼い背丈の天辺でふわりと揺れた。
(閉じたドアを開くのに躊躇いはいらない)(2007/01/24)