「また見てる」
おもわずびくりと肩が跳ねてしまったのは、単純に驚いたから。それだけだ。鮮やかな髪色が視界を掠めて、焦点を合わせるよりも一瞬早く、彼だと判った。
出会った当初から相も変わらず、ラスティは脈絡というものにあまり頓着しない。前置きもなく唐突に、でも、すとんと胸に落ちるような言葉を絶妙のタイミングで放り投げてくるのだ。こころでも読めるみたい。思ってみても、口には出さない。おまえがわかりやすいだけ、って、返されるに決まってる。
あたかも始めから隣に立っていたかのように、彼の目は自然と前を向いた。二階の通路からガラスを隔てて、階下の訓練場を観覧できるよう設計されているこの場所で、見える風景は限られていた。
「また、ってなに」
とぼけてみせた。視線の先には二人いる。どちらを追っていたかなど、わかるはずがないのだ。その手には乗らない。
「だっていっつも見てんじゃん」
「ナイフ戦は見るのも訓練のうちだって、クルーゼ隊長が仰ったもの」
「隊長のいうことなら素直にきくのな、おまえ」
てんたんとした、もしくは飄飄とした態度を、作っているのか地でやっているのかは知る由もないが、彼の言葉に下卑た響きはなく、好感が持てた。
そういえばまだ一度も目を合わせていない、と気づいて隣を見たとき、ラスティが短い声をあげた。すぐに視線を戻す。イザークが背後から腕を回すかたちでニコルを拘束し、その喉元に小型ナイフの鋭い切先を突きつけていた。二秒も経たないうちに勝者の手はスッと下ろされ、二人でなにか話している。わたしはちいさく肩を落とした。一番良いところを見逃してしまった。
「じぶんがどんな目であいつを見てるか、知らないだろ」
もう一度彼を見ると今度はまっすぐに目が合った。なんとなく居心地が悪くなって、すぐに視線を逸らす。
ラスティには関係ない、とか、何の話だかわからない、だとか、返す言葉はいくらでもあるのに。なにも言えなかった。外側から見たじぶんの印象を聞かされたのは、これが初めて。――どんな目でって、そんなの、
「知るわけないよ」
(2010/04/04)