陽の光を極端に嫌う、わたしのなかの残酷な血が、ときどき低い呻き声をあげる。たいていは自分でそれを制するのだけれど、我を忘れて走り出しそうになったとき、止めてくれるひとが傍にいる心強さを知ってしまったので、貪欲なわたしは当分この場所を離れられないだろうし、離れるつもりも毛頭なかった。
家のなかでも街のなかでも、見上げる空、その視界に、ふわりと銀白色が散るだけで、どこだって居心地の良い場所に変わるのだからなおのこと。
薄暗い闇に沈殿したふるさとで独り抱えていたさみしさを、横からひょいと拾い上げて、何食わぬ顔で傍にいる、それがこの男のわかりにくいやさしさであることも、ちゃんと知ってる。
たとえばわたしが果てしない闇を抱えた宇宙なら、あの男はそこに輝く星……だなんて洒落たものじゃあない。だいたいあのきらきら煩い星たちだって本を質せばただの石ころなのだから。
そうだ、石ころだ。
銀ちゃんにはそっちのほうが似合ってる。
わたしというちっぽけな宇宙に投げ込まれた歪な石ころ。地べたを這って生きることの酸いも甘いも知っている灰色のこころとからだにとてつもない引力を秘めて、わたしの宇宙をたくさんの石ころたちで賑わせる。空っぽだった暗闇に浮かび上がる銀河は日毎大きくなるばかり。
はっきり言って、ロマンだとか美しさだとか、そういうものは一切ない。どいつもこいつも薄汚れた灰色をしている。いっそ清清しいほど泥にまみれることを恐れないからだ。泥だらけのままこの星へ訪れたわたしをあっさり受け入れたのが良い証拠。
ほんものには似ても似つかない灰色の銀河をわたしがこころのなかで密かに大切にしていることが知れたら、あの男もまたこっそりと笑うのだろう。
そしてわたしは何度でも、この星にきてよかったとおもうのだ。得体の知れない少しの切なさを覚えながら。
(2007/09/01)
(物書きさんバトンのお題「銀河・パノラマ」をテーマに書かせて頂きました)