13.

 他人の復讐を止める気はないが手を貸すつもりもさらさらない、と、旅団を追うことに一人応じなかったアキが、あたかも最初からそこにいたような顔をして人質交換の場に立ち会ったことに、なぜだか笑いがこみ上げたが、流石に不謹慎なので堪えた。大方要らない気を回したレオリオからの連絡を受けて飛んできたのだろう。クラピカは余計なことをするなと憤慨したかもしれない。そんなあいつを一発くらい殴りつけていれば面白いのに。もちろん、アキが。二人を嗜めたのはどう贔屓目に見てもレオリオではなくセンリツのはずだった。その一連の様を瞼の裏に浮かべながら、俺はおもう。今回のことで功労賞があるとすれば、それは間違いなく俺とゴンとセンリツのものだ。

「無事でよかった」

 外部の轟音とエンジン音とが混じり合って足元で響くちいさな飛行船のなかで、アキの声が確かにそう言った。ゴンが、僅かな高揚を交えて応じたように見えたのは、その特異性に気づいたためかもしれなかった。彼女が他人を気遣って声をかけた回数なぞおそらく片手で事足りる。無論確証はない。なんとなくそんな気がしただけのこと。
 ねえアキもしかしてクラピカとけんかした?、実にあっさりとゴンが言う。取り留めのない会話を紡いでいた唇から唐突に核心に触れる言葉が飛び出すたびに、俺がどれだけひやりとするか、一遍こいつに教えてやらなければ。後の祭りである。

「……今回のことで少しは懲りてくれればいいのに。あなたたち全員が」
「懲りるわけねえじゃん、特にゴン」
「そんなことないよ!」
「いーや!あるね」

 なおもないと言い張るゴンに、どれだけ“そんなことあるか”を諭すより先に、俺にはどうしてもはっきりさせたいことがあった。いつどこへふらりと姿を消すかもしれない彼女とは違って、二つの意味での石頭とは喧嘩も和解もいつだってできる。水掛け論になる前に会話を打ち切ってやると、不満げな表情を短く落として、一人でさっさと心配事の種である男のところへ行ってしまった。

「さっきゴンの言ってたこと、当たってんだろ?それって俺たちのため?」

 あいつの後姿を見送るように見せかけて、その実ほんとうに見たいものは別のところにあることくらいすぐにわかった。黙ってそれを見守っていられるほど、あいにく俺のこころは広くもやさしくもなかった。一拍おいて、彼女の視線がこちらに戻る。

「違う、私が勝手に腹を立てただけ」
「同じだよ。あいつが俺たちを巻き込んだって認識がそもそも間違ってる」
「どうして?彼の私怨がなければ蜘蛛になんか、」
「手伝うことを選んだのは俺たちだ」

 それでも非はあの男にだけあると考えるのなら、それは過保護というもの、要するにこども扱いである。俺は、それだけはどうしても許せない。最初にひとを見た目で判断するなと言ったのはアキだ。ならば俺たちに対してもそうあって然るべきではないか。

「あのさ、言っとくけど俺、守られる側でいる気ないから」

 特にあんたに関しては、とこころのなかで補う。僅かに動揺した素振りを見せたが、彼女のなかでそれはすぐに消化され、一度だけゆっくりと瞬いて見せた後にはもう、平静を取り戻していた。内心の立て直しの早さに俺は感心と落胆を同時に覚えた。そうして彼女が次に唇を開きかけたとき、なにかの倒れる音とほぼ同時に、ゴンが叫ぶようにクラピカの名を呼んだ。

(腫れた瞼の裏で温もる)(2008/12/05)

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