詮索を美徳としない点において、彼と私はよく似ていた。少なくとも私はそう感じている。
事実、互いに相手の名前しか知らない現状を打開すべく矢継ぎ早に質問を浴びせる他の三人を眼前においても、ただ一人クラピカだけは必要なことを必要なだけ話す姿勢を崩そうとはしなかった。二次試験の合格者を乗せた飛行船の中で彼が私に質したことの内容は、だからとても意外だった。
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飛行船に乗り込んで早早にゴンとキルアは連れ立ってどこかへ行ってしまった(二人はそれを探検と称していた)。
残されたレオリオとクラピカはひどく疲れた面持ちで壁に背を預けて間もなく意識を手放し、それを横目に認めながら、さて自分はどうしたものかと考える。
先の長い試験に備えて休息を取るのも良いが、然程疲労感を覚えない私の体は睡眠を欲していなかったので、先に探検の道を選んだ少年二人に倣って飛行船の中を見て回ることにした。
大きな飛行船だった。いくつかの部屋と、食堂と、小さいながらロビーもある。これだけの広さならば二人の即席探検家も暫くは飽きないだろう。そんなことを思いながら、ロビーの窓際に備え付けられた長椅子に腰を下ろした。
窓の外に散乱する幾億もの光。空に散りばめられた謙虚な輝きに比べれば、地上に張り巡らされた大仰な輝きはあまりにも眩過ぎる。目を伏せたくなるほどに。
ややあって、隣に人の座る気配を感じた。
視界の端で金色の髪がわずか煌めく。(ーーああ、私は、)沢山ある空席の中からわざわざその場所を選んでおきながら、しかし話しかけてくる様子はない。(あの空に輝く自然の光を集めて紡いだようなこの色が、とてもすきだ)
流れる沈黙。彼と私の間に成立する話題など、ほとんどなかった。彼は私を知らない。私は彼を知らない。知る必要があるか否かは、二人次第。
やがて、彼は沈黙を破った。
「ひとつ、聞きたい。君は何故ハンターになろうと?」
「……あなたにしては随分不躾な質問ね」
「答えたくないのならそれで構わない。ただ…、」
歯切れの悪い語尾も彼らしくないと思った。
私が彼の何を知っていると言うのだろうか。何も知らない。けれども、私の中で彼に抱く印象は着実に地を固めつつある。
「君に少し興味が湧いた」
喜びと羞恥の入り混じったようなこの気持ちは、私から平常心を遠ざけるようなこの気持ちは何なのか、この男は知っているだろうか。
(溶けてゆくのは)(2007/02/18)