如何にしてひとの目に触れず速やかに標的を弑するかは、あらゆる意味での死角を突くことにほぼ等しい。言葉よりも先に覚えたその感覚が深く身に沁みている為に、人間の纏う空気の微弱な変化を読み取るのは得意中の得意だった。その俺が、先に飛行船から降りて三次試験の会場となるだろう場所を抜け目なく見渡したクラピカと、後からぞろぞろと飛行船を降りる受験生の群れの最後尾にようやく姿を見せたアキの視線が、刹那的に交わったことに、気づかないはずがなかった。
「なんかあったの?」
通算三人目の試験官から与えられた猶予は七十二時間。
この先何が待ち構えているか見通しのつかない現状においては一分一秒も惜しいところだけれど、タイミングさえ掴めれば、疑念は早早に晴らすべきだと考えた俺はアキに素直な疑問を投げかけた。遠慮を知らない子供である自分も活用次第では捨てたものじゃない。
「……何かって?」
「クラピカと」
軽い揺さぶりのつもりで出した名前に、しかし彼女は応じなかった。別に何も、それだけ答えてふたたびトリックタワーの天辺から下りられる道を探し始めた(あるいはその振りをした)。
もちろん彼女の言葉を呑みにする気は更更ない。けれども、それ以上の追求は野暮であると分かっていたので、冗談めかして隣から覗き込むようにアキの視線を捉えた。真実は眼を見れば分かる、という意味を込めたジェスチャーだ。
「嘘だと思うならクラピカにも訊いてみればいいじゃない」
「……」
「キルア?」
「なあ、あんたの眼、パッと見は黒だけどこうして見ると黒に近い褐色なんだな」
またひとつ新たな発見をした。意識を働かせた上でよくよく見なければ気付けないこの小さな事実を、この会場にいる一体何人が気づけただろうか。……あいつはもう、このことに気づいたのだろうか?
まだ多く残る受験生の中でも一際目立つ金髪を難なく見つけると、視線がぶつかる寸前に相手がそっぽを向いた。もう遅い。あいつは確かに俺達を見ていたのだ。
(目で追う、けれども、脚は動かなかった)(2007/05/02)