人工的な灯りを消せば己の手の所在も掴めないような暗闇のなか、月明かりを頼りに歩き進めた。
合格の要となるプレートは二枚、あるいはそれ以上。私のターゲットは少なくとも見知った顔ではなく、つまるところ受験番号だけを頼りに探し当てなければならなかった。面倒なことこの上ないが、心のどこかで安堵する自分もいた。脳裏に浮かぶいくつかの顔。渇いた砂に落とした一滴の水のように素早く浸透するこの仲間意識はどうだ。我知らず苦笑が漏れる。
嗜好も出で立ちもちぐはぐな四人のハンター志願者に出会い、ほんの少しの時間を共有してから、心の端にひとつの確信が巣くっている。不可思議な絆の筆頭に在るのはあの興味深い眼をした少年に他ならない、という確信。
無人島の冷ややかな夜が狩る者と狩られる者の双方を音もなく呑み込んだ。暗夜を隠れ蓑に、身を潜めるも自由、寝首をかくも自由。故に油断は禁物である。まったくハンターらしい試験だと思いながら、私は浅い眠りについた。
七日間のサバイバルゲームは、私を含めて十名の受験生を残し、その幕を閉じた。受験生残留数を大幅に減らした四次試験の通過者のなかで、彼らの姿を探し、認めて、安堵に至るまでの一連は最早癖にも近かった。四人とも残っている。ほっと胸をなでおろしたのはほとんど無意識のことだった。
– –
「アキが今一番注目してんのは誰?」
「……会長の次はキルアの面談?」
「まあね。ちょっと気になったからさ」
次の試験会場までは飛行船で三日かかるらしい。相変わらず大きな船内は、これまでに脱落した多くの受験生の相乗効果で一層広く感じられた。そんな折、審査委員会に拘束された時間は会長との面談時のみで、移動時間のほとんどを各々好きに与えられた。
休息を取る者、トレーニングに勤しむ者、次に臨むべく試練の準備に余念がない者、私は三次試験が始まる前に座っていたのと同じ窓際の席に座り、しかし隣にいるのはクラピカではなかった。
「だからと言って、私に答える義理はないわ」
「言うと思った」
なら聞かなければいいのに……、舌先に届けることなく心の内に紡いだ言葉は、あらかじめ見越されていたのか、キルアは確信を込めた視線を寄越した。
「今、だったら聞くなよ、って思った?」
「……少し」
「だよなあ。でもさ、何か聞かずにはいられなかったっつーか」
正直言って、何を伝えたいのか図りかねる。訝しむように隣を見れば、彼自身困惑した様子であった。まるで自分の中に答えを探すような不安定な面持ちが、少しの間をおいて表情を変える。
「俺だったらいいなって思ったんだ」
その横顔は幼くも凛然として。彼もまた、自分とは間逆の性を持つ人間であると、愚かにも私はこの時初めて思い知った。
(くっきりと、どこまでも鮮やかに残る)(2007/06/17)