「にいちゃん、」
あれはいつのことだったか。小春が俺の着物の裾を掴んで、真面目腐った顔をした、あの日。
記憶の引き出しを内側から蹴破るような強引さでよみがえってきた過去を、意図して細部まで探ってみれば、その頃の俺はやたらと髪が長くまだ隊士服を着ていなかった。自分でいうのも何だが、若い。小春に至っては若いというよりどこか幼い。
紫煙をくゆらせて、宙に思い描いた面影を蹴散らした。
俺があの芋道場に身を置いてから数年の後、あれは確かあいつが十三、四歳の頃だったか、とぼんやり考える。
傍から見れば兄妹以外の何者でもない俺とあいつの類似点は、何も外見だけではない。人間に対する好き嫌いや、譲れないもの譲れないことは例えこの身を削ろうとも頑として譲ろうとしないところ、ふとした瞬間に好きだと感じるものだとか、がさつの権化のような形をして、一等大事なことは決して履き違えない一人の男にどうしようもなく惹かれていること。全く、兄妹揃いも揃って。
上っ面だけの浅い付き合いの人間からはむしろ正反対に思えるかもしれない“中身”においても、やはり俺達は血縁のもとに同じなのだと、幾度となく思い知るのだった。
だからいつかこんな日が来るんじゃねェかって、ほんとうは、もうとっくに。
「にいちゃん、わたし、総が好きだよ」
それでも気に喰わねェもんは気に喰わねェんだよ文句あっか。おまえも知ってんだろ、俺らの大将ががさつの権化なら一見涼しげな形したあいつはサディズムの権化なんだよ、つーか俺が一番言いたいのはそこじゃなくて、
揃いも揃って同じ家系に入れ込んでんじゃねェよ、馬鹿野郎。
(似たもの兄妹)(2007/07/11)