それいけ!スケット団

「ヒメコ、茶」

 読みかけの単行本に視線を落としたまま、そう言った。……が、しばらく待っても、彼女の立ち上がる気配と共に届くいつもの返事は聞こえてこなかった。なにかに集中して気づかなかったのかもしれない。ボッスンはもう一度声をかけた。先ほどよりも大きく、間延びした声で。

「おーいヒメコ、茶ァ」
「うっさいわボケたまには自分で入れろやハゲ」
「な、なんだよ、機嫌悪いなおまえ……。なんかあったのか?あとおれはハゲてないから、ふっさふさだからね」
「ハゲたらええねん」
「なんでそういうこと言うの!?」

 勢いをつけて振り返ると、ソファの背の向こう側で向かい合わせにふたつ並べた机、そのひとつに着いたヒメコは、いつの間にか椅子のうえで三角座りをして分厚い毛布に全身をくるんでいた。

「寒いねん!この部室もおまえの存在もなにもかも寒い!」
「しょうがねーだろ、ストーブ壊れちまったんだから」
「ほなさっさと新しいやつ買うてこいや」
「そんな金がどこにあんだよ」
「スイッチ、髪の毛ってどこで売れんの?こんな小汚いのでもいけるん?」
「売らないからね!?」
『小汚い毛髪をすこし集めたくらいでは到底金にはならないだろうな』
「おまえも真面目に答えなくていいんだよ!つか小汚くねーし!毎日洗ってるし!もー、なんなんだよおめーら、スイッチはともかくヒメコまで今日はやたらボケ倒すな……」
「ボッスンなんかつるっつるにハゲてアタシの倍くらい寒い思いしたらええねん」
「…ったく、しゃあねぇなあ」

 ほらよ、と差し出されたブレザーに、ヒメコは目を丸くする。

「おれ中にパーカー着てるし、今だけ貸してやるよ」
「ボッスン……」
「いいから着てろって」
「この少女漫画のような展開……あんたがやってもいっこもときめかへんわ」
『ボッスンだからなww』
「おまえらそこに正座ァ!!」

(部長命令はあっさりとスルーされました)
(2007/08/12)

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