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14.
時折風が撫ぜる他にほとんど波はなく、穏やかに流れる水面、その下で、水深深く潜れば潜るほど獰猛な流水が牙をむく。山でもなく海でもなく、河川に秘められたそんな... -
見つけた灯火
ただでさえ非日常に侵された空間がさらに加速度を上げて現実から離れていくような錯覚に陥りながら、弥子は息を詰めて前を見据えた。(……ネウロじゃない) 眼前に在... -
花の灯
着地したとき足の裏になにかやわらかいものを踏む感触があった。それに気をとられたモルジアナが視線を落とすのに気づき、マスルールは蹴り上げかけた右足をぴたりと... -
13.
他人の復讐を止める気はないが手を貸すつもりもさらさらない、と、旅団を追うことに一人応じなかったが、あたかも最初からそこにいたような顔をして人質交換の場に立... -
12.
十二本の手足を持つ怪物は、無数の生を紙屑のように破り捨ててきた業突くな怪物は、赤く染まりゆく視界の向こうでもはや物言わぬ肉塊として打ち棄てられていた。 報... -
11.
一目見て理解した。このひとは、かつて多くの知識を身に纏いながらたったひとつのものの存在を知らぬが故に、世界にとっては無知なこどもと同じレベルにあったこのひ... -
10.
自分の与り知らぬところで事が運ぶことを極端に嫌うこどものような感情を、持て余さない程度にはおとなであると自負している。 傷だらけの顔をありったけの歓喜に綻... -
牡丹
庭に咲く大輪の花がとても美しかったので、何という花なのか知りたくなって、花びらの色、かたち、葉の広がり方、それら花の特徴を記憶してから母の部屋へ向かった。... -
道草・前編
鶴なのに手袋をつけた、それは奇妙な生き物だった。やわらかそうな白い羽をばさばさと忙しなく上下させ、彼の細い足には大きすぎるような、でもふしぎとよく似合って... -
道草・後編
「なんだかそわそわしているね」 脈絡というものにあまり重きをおかない彼はこのときも例に漏れず、そう言った。だれに対しての言葉か理解するのに一瞬の間をおいてし...